秋田地方裁判所大曲支部 昭和42年(ワ)110号 判決 1968年9月02日
原告
田口順子
ほか三名
被告
大隅運輸株式会社
主文
一、被告は
(一) 原告三太郎に対し金九九八、四一三円および内金八九八、四一三円に対する昭和四一年五月八日から、内金五万円に対する昭和四二年八月一日から、内金五万円に対する昭和四三年九月二日から各完済まで年五分の割合による金員
(二) 原告順子、同忠昭および同三昭各自に対し各金七九八、三四九円および内金七一八、三四九円に対する昭和四一年五月八日から、内金八万円に対する昭和四三年九月二日から各完済まで年五分の割合による金員
を各支払え。
二、原告らのその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担、その余を原告らの負担とする。
四、この判決は第一項に限り原告三太郎において金三三万円、原告順子、同忠昭および同三昭各自において各金二六万円の担保を供するときは、夫々仮りに執行することができる。
事実
第一、原告ら訴訟代理人は、「被告は原告三太郎に対し金二、五八二、六五〇円およびこれに対する昭和四一年五月八日から完済まで年五分の割合による金員、原告順子、同忠昭および同三昭各自に対し各金一、八六〇、五八〇円およびこれに対する昭和四一年五月八日から完済まで年五分の割合による金員を各支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行宣言を求め、請求原因として次のように述べた。
一、原告三太郎は訴外田口フユの夫であり、原告順子、同忠昭および同三昭はいずれも同女と原告三太郎間の子である。
二、訴外松岡由広は、貨物自動車運送を業とする被告に雇用されていた者であるが、右業務のため昭和四一年五月七日午後一〇時五分頃秋田県仙北郡六郷町六郷字米町四三番地先十字路交差点において、被告所有の大型貨物自動車(足立一う二三―四四号)を運転して、大曲市方面から横手市方面に向い東進中、原告三太郎運転にかかり同交差点を北進中の軽自動車(六秋う〇〇一四号)に自車を接触させ、その衝撃により右軽自動車の左側前部扉が開き、これに同乗していた訴外フユをして車外路上に転落させたうえ前記大型貨物自動車の右側後輪でこれを轢過し、よつてその約一〇分後に同所附近において下肢挫断創等により死亡せしめた。
(一) 被告は右の如く本件大型貨物自動車を所有して自動車運送業を営むものであり、訴外松岡は被告に雇用されていたものであり、当時被告の右業務を遂行するため本件大型貨物自動車を運転していたものであるので、被告は自己のために本件大型貨物自動車を運行の用に供していた者であり、訴外フユの死亡事故はその運行により生じたものであるから、被告は右事故により生じた左記損害を賠償する義務がある。
(1) 金四、二三二、六一〇円(逸失利益)
訴外フユは、当四五歳五月の女子で、主婦として原告三太郎方家事に従事する傍ら毎月一三日から二二日までの間訴外東北電力株式会社秋田支店の委託集金員代理として稼働して毎月少くとも金一五、〇〇〇円の収入を得ていた者であるが、主婦の家事労働は少くとも一日当金七〇〇円と評価し得るから一ケ月金二一、〇〇〇円となり、これらを合わせると訴外フユは一ケ月金三六、〇〇〇円の収入を挙げ得たわけである、しかるところ同女の生活費は一ケ月金八、〇〇〇円に満たないものであつたから、これを右得べかりし収入から控除すると、同女の得べかりし利益は少くとも一ケ月金二八、〇〇〇円となる。
ところで、当四五歳五月の女子の平均余命は、厚生省大臣官房統計調査部発表の第一〇回生命表によれば、二九・四五年であるから、訴外フユも亦さらに右平均余命の間生存し、少くとも右事故死当時からさらに一七年七月の間稼働し得たものというべきである。しからば右稼働可能期間内の得べかりし利益を前記割合により算定すると合計金五、九〇八、〇〇〇円となり、訴外フユは本件事故により右金員相当の得べかりし利益を喪失したわけである。
これをホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除すると金四、二三二、六一〇円となる。
原告らは訴外フユの死亡によりその共同相続人として法定相続分に応じて右損害賠償請求権を承継取得したが、自賠法による保険金一〇〇万円の支払を受け、これを各金二五万円宛按分充当したので、その残額は原告三太郎につき金一、一六〇、八七〇円、原告順子、同忠昭および同三昭各自につき各金六九〇、五八〇円である。
(2) 金一九一、七八〇円(葬儀費)
原告三太郎は訴外フユの葬儀法要の費用として、左記のとおり合計金一九一、七八〇円の支出を余儀なくされた。
記
1 火葬料 金三、〇〇〇円
2 葬具料 金七、三〇〇円
3 霊柩車代 金二、二八〇円
4 供養料 金二五、〇〇〇円
5 御布施(六回分) 金六、〇〇〇円
6 写真代 金三、二〇〇円
7 葬式菓子代 金一五、〇〇〇円
8 葬式料理代 金三〇、〇〇〇円
9 仏壇仏具一式 金一〇〇、〇〇〇円
(3) 金四〇〇万円(慰藉料)
1 原告三太郎は妻訴外フユと円満な婚姻関係を続けてきたものであるが、その協力により電気器具および農機具販売修理の家業も軌道に乗り、原告順子ら三子も漸く成長し、殊に原告順子が念願の県立高校に入学するにいたつたのでここに長年の苦労がやつと実を結び始めたものと幸福感に浸つていた矢先、本件事故に遭遇したものであり、本件事故により愛する妻を無惨な死により喪い、幸福な家庭を破壊されたことおよび原告順子ら三子を独りで養育して行かなければならない精神的負担を負うにいたつたことにより蒙つた苦痛は金一〇〇万円の支払を以て初めて慰藉されるべきものである。
2 原告順子は当日はたまたま「母の日」の前夜に当つていたので、訴外フユに対しその贈物を準備し、前記軽自動車の後部座席に同乗していたのであるが、本件事故により一瞬にして眼前に敬慕する母を喪い、高校生の身でありながら弟原告忠昭、同三昭のため母親の役をも引受けなければならなくなつたものであり、その精神的負担および苦痛は多大である。
原告忠昭は当日はたまたま義務教育最後の年の修学旅行中で、東京都内の旅館において就床していたのであるが、その際本件事故の報に接したので、その精神的苦痛はなおさら甚大である。
原告三昭は当時未だ七歳一一月で、母の懐から離れ難い年頃であつて、本件事故の際もたまたま前記軽自動車の後部座席に同乗していたのであるが、本件事故により切断された母訴外フユの片足を抱いたまま離れようとしなかつた程であつて、その悲歎は測り知れないものである。
右の次第であるので、本件事故による原告順子、同忠昭および同三昭各自の精神的損害は各金一〇〇万円を以て初めて慰藉されるべきものである。
(4) 金七四万円(弁護士費用)
原告らは被告において右損害賠償を履行しないので、昭和四二年八月一日岩手弁護士会所属弁護士菅原一郎および同菅原瞳に対し右損害賠償請求の訴の提起方を委任し、その手数料および謝金は合計で原告三太郎において金二三万円、原告順子、同忠昭および同三昭において各金一七万円とし、これらを本件第一審判決言渡時に支払う旨約したうえ、原告三太郎は右契約締結の日に右手数料内金五万円の支払をしたものである。
三、よつて被告は原告三太郎に対し、右訴外フユの損害賠償請求権を相続取得した分のうち残金一、一六〇、八七〇円、葬儀等費金一九一、七八〇円、慰藉料金一〇〇万円、弁護士費用金二三万円合計金二、五八二、六五〇円を、原告順子、同忠昭および同三昭各自に対し各右訴外フユの損害賠償請求権を相続取得した分のうち残金六九〇、五八〇円、慰藉料金一〇〇万円、弁護士費用金一七万円合計金一、八六〇、五八〇円を夫々これらの金員に対する本件事故の翌日である昭和四一年五月八日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を附加して支払うべき義務がある。
第二、被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁および主張として次のように述べた。
一、原告三太郎は訴外フユの夫であり、原告順子、同忠昭および同三昭はいずれも訴外フユと原告三太郎間の子であること、訴外松岡は原告ら主張の日時場所において本件大型貨物自動車を運転中原告ら主張の軽自動車と接触したこと、訴外フユは原告ら主張の日時頃右接触事故により死亡したこと、被告は本件大型貨物自動車を保有し自動車運送業を営むものであり、訴外松岡は被告に雇用され、その業務のため本件大型貨物自動車を運転中であつたことは認めるが、その余の事実は争う。
二、過失相殺
本件事故は原告側にも過失があつたので、本件賠償額については過失相殺さるべきである。すなわち、本件交差点は交通整理の行われていない交差点であつて、かつ交差する道路幅はほぼ等しいものであつたのであるが、訴外松岡は原告三太郎より先に本件交差点に入つたのであるから、原告三太郎は訴外松岡の進行を妨げてはならない義務があつたものというべく、仮りに両車が同時に本件交差点に入つたものとしても、訴外松岡運転の自動車は大型貨物自動車であり、原告三太郎のそれは軽自動車であるから、原告三太郎は訴外松岡の進行を妨げてはならない義務があつたものというべきである。しかるに原告三太郎は右義務を怠り、同交差点に入るに際し減速も徐行もせず、さらに本件事故発生までの間ブレーキを踏むことさえしなかつたため、本件事故を惹起したものである。従つて本件事故は原告三太郎の過失により生じた割合がより大きいものというべきであるから、本件賠償金額については充分過失相殺さるべきである。
第三、立証 〔略〕
理由
一、訴外松岡は昭和四一年五月七日午後一〇時五分頃秋田県仙北郡六郷町六郷字米町四三番地先十字路交差点において大型貨物自動車(足立一う二三―四四号)を運転して大曲市方面から横手市方面に向い東進中、原告三太郎運転にかかり同交差点を北進中の軽自動車(六秋う〇〇一四号)に自車を接触させ、その衝撃により右軽自動車の左側前部扉が開きこれに同乗していた訴外田口フユにおいて車外路上に転落したうえ右大型貨物自動車の右側後輪で轢過され、よつてその約一〇分後に同所附近において左大腿部挫断等により死亡したことは当事者間に争いがない。
しかるところ、被告は本件大型貨物自動車を保有し貨物自動車運送業を営むものであるうえ、訴外松岡は被告に雇用され自動車運転の業務に従事していた者であるところ、本件事故当時も右業務のため本件貨物自動車を運転中であつたものであることは当事者間に争いがないから、被告は自己のため本件大型貨物自動車を運行の用に供する者であつて、本件死亡事故はその運行によつて生じたものであるということができる。
しかして、〔証拠略〕によれば、前示交差点は交通整理の行なわれていないもので、かつ左右の見透しのきかないものであるから、訴外松岡は徐行して運転進行すべき注意義務があるというべきところ(道交法第四二条)、これを怠り、時速約三五粁で進行したため、原告三太郎において前示軽自動車を運転して同所を北進して来たのを避止できず、自車の右側ステツプ部を右軽自動車の前端部に接触させて、以て本件事故を生ぜしめたものであることが認められるので、訴外松岡に運転上の不注意があつたものということができる。しからば被告は訴外フユの死亡により生じた損害を賠償すべき義務がある。
尤も、右認定事実によれば、原告三太郎においてもやはり徐行して進行すべき注意義務があるというべく、のみならず前掲証拠によれば、訴外松岡の通行していた道路の幅と原告三太郎のそれとはほぼ等しくしかも両者はほぼ同時に本件交差点に入ろうとする状況にあつたものであることが認められるので、原告三太郎は訴外松岡の進行を妨げてはならない運転上の注意義務があるというべきところ(道交法第三五条第三項)、前掲証拠によれば、原告三太郎はこれを怠り時速約二〇粁で進行したため訴外松岡において前示大型貨物自動車を運転して同交差点を東進して来たのを避止できず、自車前端部を右大型貨物自動車の右側ステツプ附近に衝突せしめたものであることが認められる。〔証拠略〕中には、原告三太郎は前示交差点に入るに際し徐行した旨の部分があるが、若し原告三太郎が真実徐行すなわち直ちに停止することができるような速度で進行したとすれば、原告三太郎の進行道路の前示交差点入口線から本件衝突地点までの距離は約二・九八米であることは〔証拠略〕により明らかであるので優にその間に右軽自動車を停止させ以て本件衝突を避け得た筈であることおよび証人松岡由広の証言と対比するとたやすく措信できない。右認定事実によれば原告三太郎においても運転上の過失があつたことは明らかである。
しかしながら訴外松岡において前示過失の存する以上、原告三太郎においても右過失があつても、被告の右賠償義務を阻却しないものといわなければならない。
二、損害額
(一) 訴外フユの蒙つた財産上の損害
(1) 〔証拠略〕によれば、訴外フユは大正九年一二月二九日秋田県仙北郡六郷町において出生し、同地の旧尋常高等小学校高等科を卒業し家業の魚商の手伝をしていたが、昭和二四年一〇月一〇日原告三太郎と婚姻し、爾来原告三太郎の肩書住所において同人と同居し、原告順子、同忠昭、同三昭を養育し、原告三太郎所有の自家用野菜畑約一八〇坪を耕作する等家事に従事していたものであること、ところで原告三太郎は肩書住所において電気器具および農機具販売修理業を営み年間金四五万円の利益を挙げる傍ら訴外東北電力株式会社秋田支店から集金員としての委託を受けていたものであるが、右集金は事実上訴外フユをして右家事の傍ら毎月のうち二〇日間をこれに当らせ、一ケ月金一五、〇〇〇円の収入を得ていたものであること、原告三太郎は訴外フユの死亡後は右野菜畑の耕作を除くその余の家事を処理してもらうため一ケ月のうち一〇日間は他人を雇入れ、一日当金七〇〇円の手間賃を支払い、又右野菜畑の耕作をしてもらうため一ケ月のうち六日間は他人を雇入れ、一日当金一、〇〇〇円の手間賃を支払つていることが認められ、右事実に鑑みると訴外フユは一ケ月金二一、〇〇〇円の収入を得る蓋然性を有していたものというのが相当である。
なお前示家事の手間賃、耕作の手間賃および集金料を合計すれば一ケ月金二八、〇〇〇円となるわけであるけれども、訴外フユは直接訴外東北電力株式会社秋田支店との間に契約を結び報酬を得ていた関係にはなく、ただ原告三太郎においてなすべき右集金の業務の履行を補助していたに過ぎないものであり、又右集金に従事する間は家事には従事し得ないわけであるから、訴外フユの一ケ月の収入を算定するに当り、家事労働を一日当金七〇〇円と評価したうえ計金二一、〇〇〇円とし、これに右集金による収入を加えるのは相当ではないし、又右委託集金料が全部訴外フユの収入と見るのも相当ではないというべきである。しかるところ、前掲証拠によれば、原告三太郎は前記電気器具等販売修理業による利益および委託集金員としての収入を以て訴外フユら妻子四名と共に生計を営み、原告順子を県立高校に、原告忠昭を中学校に、原告三昭を小学校に夫々自宅から通学させていたものであることが認められ、この事実から考えると、訴外フユの生活費は一ケ月金八、〇〇〇円と見るのが相当である。してみると訴外フユの得べかりし利益は一ケ月金一三、〇〇〇円と見ることができる。
ところで、厚生省大臣官房統計調査部発表の第一〇回生命表によれば、当四五才五月の女子の平均余命は二九・四五年であるから、訴外フユも亦さらに右平均余命の間生存し得、少くとも本件事故による死亡時からさらに一七年七月の間は家事労働に従事し得たものであると考えられるから、訴外フユは右労働可能期間中右割合により合計金二、七四三、〇〇〇円の利益を得た筈であるから、訴外フユは本件事故により右金員相当の損害を蒙つたわけである。これをホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除すると金一、九六五、一四〇円(円未満切捨)となる。
(2) 相続
原告三太郎は訴外フユの夫、原告順子、同忠昭および同三昭はいずれも同女の子であること、同人らは訴外フユの死亡によりその共同相続人として法定相続分に応じて相続したことは当事者間に争いがない。
してみると、原告三太郎は金六五五、〇四六円、原告順子、同忠昭および同三昭各自は各金四三六、六九八円につきこれを相続したわけである。
(二) 原告三太郎の支出した葬儀費等
〔証拠略〕によれば、原告三太郎は訴外フユの火葬費金三、〇〇〇円、葬具費金七、三〇〇円、霊柩車代金二、二八〇円、供養料金二五、〇〇〇円、布施料金六、〇〇〇円、写真代金三、二〇〇円、葬式菓子代金一五、〇〇〇円、葬式料理代金三〇、〇〇〇円計金九一、七八〇円を負担支出したことが認められるので、原告三太郎は本件事故により同額の損害を蒙つたものということができる。
〔証拠略〕によれば、原告三太郎は訴外フユの祭祀のため仏壇、仏具費金一〇万円を負担したことが認められるが、仏壇、仏具は訴外フユの祭祀のために用いられると共に原告三太郎において祖先の祭祀の用にも供し得るものであるから、原告三太郎は右費用負担の反面利益も得ているものというべく、従つて右仏壇、仏具費のうち被告に対し損害として賠償を請求し得るのはその五〇パーセントに相当する金五万円と認めるのが相当と考えられる。
よつて原告三太郎が本件事故により蒙つた葬儀費等は合計金一四一、七八〇円である。
(三) 過失相殺
本件事故においてはさきに認定した如く原告三太郎においても運転上の過失があつたことが明らかである。そして原告三太郎の過失と訴外松岡のそれとの割合はほぼ五対五と認めるのが相当と考えられるので、被告は以上認定の損害金のうち各二分の一につき賠償すべきである。
民法第七二二条第二項にいわゆる被害者に過失ありたるとき、とは公平の見地から広く被害者側に過失あるときの趣旨と解すべく、しかして原告三太郎は訴外フユと夫婦として互に協力扶助し生計を共にしていたので、訴外フユの損害賠償請求権行使の結果は事実上は原告三太郎の利益にも帰する関係にあるので、原告三太郎の過失を訴外フユ側の過失と見て過失相殺し得ると解するのが相当と考えられる。
してみると被告の賠償すべき右財産上の損害額は、原告三太郎のため合計金三九八、四一三円、原告順子、同忠昭および同三昭各自のため各金二一八、三四九円となる。
(四) 慰藉料
〔証拠略〕によれば原告三太郎は大正七年一月一七日秋田県仙北郡太田村で生れ、居村の尋常高等小学校を卒業し、工員等を経た後、昭和二四年一〇月一〇日訴外フユと婚姻し、爾来肩書住所において電気器具等の販売修理業を営んでいるものであつて、訴外フユとの間で円満な婚姻関係を結んでいたものであり、又原告順子は昭和二五年七月一〇日生で原告三太郎、訴外フユ間の長女、原告忠昭は昭和二七年一月二四日生で同長男、原告三昭は昭和三三年六月一六日生で同二男でありいずれも訴外フユを敬慕していたものあり、本件事故により訴外フユを喪つたことにより精神的苦痛を受けたことはこれを推認するに難くなく、前記原告三太郎の過失および諸般の事情に鑑みるとこれら精神的損害は各金五〇万円を以て慰藉されるべきである。
(五) 弁護士費用
〔証拠略〕によれば、原告らは昭和四二年八月一日弁護士菅原一郎および同菅原瞳に対し、本件損害賠償請求の訴の提起方を委任し、その手数料および謝金は合計で原告三太郎において金二三万円、原告順子、同忠昭および同三昭において各自金一七万円とし、第一審判決言渡時に支払う旨約したことが認められる。
ところで交通事故の被害者が賠償義務者から任意にその履行を受けられない場合、権利実現のためには訴を提起することを要し、そのためには弁護士を委任するのが通常であるから、これに要する費用は、事案の難易、請求額、認容額等諸般の事情を斟酌して相当と認められる限度において右交通事故と相当因果関係に立つ損害と見るべきである。
しかして本件事案、請求額および前示認容額に鑑みると右弁護士費用のうち原告三太郎において金一〇万円、原告順子、同忠昭および同三昭において各自金八万円の限度において本件事故による損害と認めるのが相当と考えられる。
三、弁済充当
しかるところ、原告らにおいて自賠法による保険金一〇〇万円の支払を受け、これを等分に按分して右逸失利益による損害金に充当したことは原告らの自認するところであるので、本件損害賠償請求権は右限度において消滅したものということができる。
四、結論
しからば、被告は原告三太郎に対しては、以上合計金九九八、四一三円および内金八九八、四一三円に対する昭和四一年五月八日から、内金五万円に対する昭和四二年八月一日から、内金五万円に対する昭和四三年九月二日から各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金、原告順子、同忠昭および同三昭各自に対しては、以上合計金七九八、三四九円および内金七一八、三四九円に対する昭和四一年五月八日から、内金八万円に対する昭和四三年九月二日から各完済まで同年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、原告らの本訴請求は右限度において理由があり、これを認容するが、その余は理由がなく棄却すべきである。
よつて、訴訟費用の負担につき民訴法第九二条、仮執行宣言につき同法第一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 磯部喬)